僕の愛した写真集 2

第2回はed van der elskenのlove on the left bank(1956)です。ロバート・フランクやアンリ・カルティエ・ブレッソンなどと並び、世界一有名な写真家であり作品でもあります。

エルスケンはスナップ写真の第一人者と言われているのですが、この作品は主人公のアンという女性を中心に当時のパリのアンダーグラウンドな部分を切り取った若者たちのドキュメンタリー的な写真集となっており、エルスケンがまだ20歳の頃に出版した処女作品でもあります。


この作品は当時は相当な物議を醸したらしいのですが、写真のみならずテキストが多く、
写真集でありながら映画感があり、物語性、構図、全てが物凄く高いレベルで結びついている奇跡としか言いようのない作品になっています。
全ての写真の流れが物凄いし、一枚だけでも物語みたいに見えるし、何より写真なのに絵画そのもののような美しさがあります。
「映画のように素敵」っていうと写真が映画より劣ってるみたいな言い方になってしまいますが、はっきり言って昨今の映画以上に映画らしい作品です。





◆love on the left bank/ed van der elsken(1956)  誌上作品展◆


表紙。恐らく世界一有名な写真のひとつ。



この写真集は、まず誰しもが冒頭にやられる。
1ページ目左に長いテキスト。このようなイントロダクションで幕を開ける。

「それは1958年の秋だった。その夜、はじめてアンと寝た。ゲリが、ねぐらにしている安ホテルの部屋を貸してくれたんだ。ゲリがおれたち二人をそこへ連れて行ってくれたのが夜の9時頃だった。2時間もしたらホテルの女主人が、出しっぱなしの蛇口の音に気がついて上がってきた。くっついているアンと俺を見つけると、あっという間に通りへ蹴り出した。ゲリは「エデン」にいた。三人になって「マウマウ」へ行った。おれはサイコーな気分だった。でも、朝が来て、もう一文無しになってしまったおれは、領事館へ行って、メキシコ・シティのすぐそばにある故郷、クエルナヴァカまでの旅費を手にいれたんだ。」

そして、右ページには写真一枚と短い文章が添えられている。(「エデン」の前で。アンが真ん中で、左がゲリ。そしておれ、マニュエル。)




そして次のページがこれ。
それはもう映画のオープニングのようで、みひらきいっぱいの写真とまるで映画のタイトルのように大きな文字。
全てがここからはじまるんだと予感させ、グイグイと引き込まれる。
こんなに美しいパリの写真を、僕は他には知らない。











男と女。恋とセックスと煙草と退廃感。
各写真には短い詩のようなテキストが添えられており、それぞれ大きさもばらばらの写真がストーリーに沿ってまるでパズルのように組み合わされ、物語は進んでいく。






これなんかもそうですが、ほんとうに凄い写真ばかりで、見ていて寒気すらしてしまう。



余談ですが、この写真が撮られた当時のカメラは今のカメラとは全く状況が違います。
今のデジカメやスマホのカメラは性能もいいし、綺麗に撮れるし、何より写るのが当たり前だけど、当時のカメラ(もちろんフィルムカメラ)は、まず写るかどうかが最初の問題で、綺麗に撮れるかどうかより、まず写らせることが大変だったらしい。
(だから「写ルンです」なんていう名前がついたカメラが登場した時は人気を博した。)
そんな中で、こんなスナップ的なラフな構図で、人の細かい表情をキャッチして、ストーリー性を持たせるって、もちろん前例なんてないし、これは技術的な面でもとんでもなく難しく苦労した作業だったというのは、安易に想像ができる。





途中にはアンの心情に沿った絵も挿入される、当時としては斬新な構成。





そして終盤の有名なこのショット。
この写真、世界中の写真家に今まで何千回と真似(オマージュ?)されたことか!!
いくどとなく、例えば身近なファッション誌なんかでもこれと同じ構図で撮られて掲載されているのを見てきています。



この写真集は、もうほんと買ってもいいと思います。日本語訳になっている国内版は現在プレミアがついて高騰していますが、定期的に再販される作品だと思うので、定価で買える時が来たら即買いだと思います。
きっと、一生付き合える本になると思うね。僕が保証する。


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